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人生朝露

人生朝露

クラウド アトラスと火の鳥 その2。

『クラウド アトラス (Cloud atlas)』(2012)。
『クラウド アトラス (Cloud atlas)』(2012)を鑑賞いたしました。
これは、評価が二分されておかしくない作品だと思います。

参照:映画『クラウド アトラス』長&超 予告編【HD】 2013年3月15日公開
https://www.youtube.com/watch?v=XPQTWE-uj5k

当ブログの注目している部分についていくつか。

『クラウド アトラス』(デイヴィッド・ミッチェル著)。
まずは、デイヴィッド・ミッチェルの原作『クラウド・アトラス』について。この小説は、

「アダム・ユーイングの太平洋航海記」
「セデルゲムからの手紙」
「半減期 ルイーザ・レイ最初の事件」
「ティモシー・キャヴェンデッシュのおぞましい試練」
「ソンミ~451のオリゾン」
「ノルーシャの渡しとその後のすべて」

という、私小説や紀行文、推理小説、コメディ、SFと分類されるような6つの物語を通して、時代も場所も異なる世界観を構築しています。その独立しているはずの物語を飛び越えて、それぞれの登場人物達がその存在すら知らない他者に影響を及ぼし、時空を超えた関係性そのもので物語の全体像を浮き彫りにさせる、という手法を使っています。

ニーチェ(Friedrich Nietzsche 1844~1900 )。
もちろん、「セデルゲムからの手紙」にもあるニーチェの「永劫回帰」(作中では「永遠回帰」)や「力への意志」なども、この壮大な小説の大きな背骨です。

参照:Wikipedia 永劫回帰
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B8%E5%8A%AB%E5%9B%9E%E5%B8%B0

『禅とオートバイ修理技術』(1970)。
ただし、原作者のデイヴィッド・ミッチェル( David Mitchell )という人が、もともと日本の滞在歴が長くて、アジア各地を転々としていた人なので、西洋人を多く描いていながら、東洋的な要素が多くみられます。「半減期 ルイーザ・レイ最初の事件」という1970年代のアメリカを舞台にした物語では、当時流行したロバート・M・パーシングの『禅とオートバイ修理技術』(1970)が出てきたり、ビートニク、ニュー・エイジなどの当時のアメリカで流行した東洋思想ブームについても描写があります。

で、ウォシャウスキー姉弟と、トム・ティクヴァの映画版『クラウド アトラス』。

『火の鳥 鳳凰編』より、上人様の輪廻の解説シーン。
チラシの評論にも載っていましたが、世界観は『火の鳥』に近い作品です。空間のものさしと時間のものさし、人間世界のみならず、動植物、無生物にまで及ぶ視野など、圧倒的に『火の鳥』の方が広く、単純に対比すべきものでもないかもしれませんが、日本人が『クラウド アトラス』を見て『火の鳥』だと思うのは自然なことだと思います。私は予告編を見てそう思いました。物語の構造が似ているし、主演のトム・ハンクスの役柄は、『火の鳥』での猿田彦、我王、猿田博士等々と続くキャラクターの位置づけに対応しています。ま、少なくとも、『攻殻機動隊』のファンであり、『マッハGoGoGo』まで実写化したウォシャウスキー姉弟が『火の鳥』を知らないということは考えられないです(笑)。(ただし、作中で火の鳥が言っているように「猿田彦」の場合は生まれ変わりではなく「子孫」という設定です)。

映画の中でもカルロス・カスタネダやソルジェニーツィンが出ていることでも分かるように、東洋思想(この場合は宗教思想を含む)を横断的に理解を示した西洋人の名がでてきます。

Wikipedia カルロス・カスタネダ
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AB%E3%83%AD%E3%82%B9%E3%83%BB%E3%82%AB%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%8D%E3%83%80

参照:Wikipeda アレクサンドル・ソルジェニーツィン
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AC%E3%82%AF%E3%82%B5%E3%83%B3%E3%83%89%E3%83%AB%E3%83%BB%E3%82%BD%E3%83%AB%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8B%E3%83%BC%E3%83%84%E3%82%A3%E3%83%B3

『マトリックス』は老荘思想や仏教思想の影響がはっきりと見られる作品でした。今回の『クラウド アトラス』の場合、原作にも、また『マトリックス』にも増して「輪廻」「業(カルマ)」「因縁生起(縁起)」というのような仏教的な観念を強く感じる仕上がりになっています。

Wikipedia 業
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%A5%AD

Wikipedia 縁起
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B8%81%E8%B5%B7

したがって内容を乱暴に言うと、
『EAST ASIA(1992)』中島みゆき。

参照:中島美雪 時代
http://www.youtube.com/watch?v=o_ukdihI648


http://www.youtube.com/watch?v=nIWup9XuQAo
中島みゆきの「時代」と「糸」を猛烈に濃縮したような感じです(笑)。
日本人にはなじみやすい作品だと思います。

『クラウド アトラス』で日本からの影響が明白なのは、
『空気人形』(2009)。
ペ・ドゥナの起用のきっかけとなったであろう是枝裕和監督の『空気人形』(2009)。これは決まりでしょう。
 
参照:Air Doll (空気人形) Trailer
http://www.youtube.com/watch?v=W6guDSG-tzg

参照:Innocence Chap3
http://www.youtube.com/watch?v=f5hKDBXqCIc
ウォシャウスキー姉弟がこの辺を嫌うわけがない。

『千年女優』(2002)。
日本のアニメ作品で最も近いのは故・今敏監督の『千年女優』(2002)。輪廻を機軸にした物語の展開のさせ方がよく似ています。めくるめく感覚、天空に開く蓮華。

参照:千年女優 / Millennium actress
http://www.youtube.com/watch?v=0G-lzD64x7I

【千年女優】アリゾナの老人、年相応の役を務める(字幕版)
http://www.youtube.com/watch?v=oXyB-Dvy9MI
長生きするとしたら、わたしはこんな老人になりたい。

ただし、
『JoJoの奇妙な冒険』第三部より。
日本のサブカルチャーからの影響を多く指摘された『マトリックス』では、たとえば、『ジョジョの奇妙な冒険』と一致する描写(花京院のファッション、弾丸をつまむ、走りながら他人の携帯電話を盗む、人的エネルギーを利用して心臓を直接握って蘇生させる等々)などありました。『クラウド アトラス』でも、流星のような痣が、ジョースター家の子孫たちの星型の痣と同じように、命の連続性の目印になっています。また、展開が、ジョジョの第六部のプッチ神父の『メイド・イン・ヘブン』には近いですが、今回に限って言うと原作からある設定なので、ジョジョからとは言いにくいです。やはり、作者もその影響を認めているように、三島由紀夫の『豊饒の海』からでしょう。

『クラウド・アトラス』下。
≪・対称性は実際と仮想の未来をも要求する。私たちは来週、来年、または二二二五年がどうなるかを想像する---仮想の未来は願望、預言、白昼夢から形成される。この仮想の未来は実際の未来に自己実現の預言のような影響を与えるかもしれない。だが実際の未来は、わたしたちの仮想の未来に浸食する、明日が今日を確実に浸食するのと同様に。ユートピアのように、実際の未来&過去はかすんだ遠方のみに存在して、誰にも手に入るものではない。
・Q--煙、鏡&影からなる一つの像--実際の過去--と、もう一つの像--実際の未来の間には意味のある差はあるのか?
・時間のモデルの一つ--絵に描かれた瞬間の永遠のマトリョーシカ人形、それぞれの「殻」(現在)が、わたしが実際の過去と呼ぶいくつもの「殻」(以前の現在)、仮想の過去として認識しているものの中に入っている。「現在」の人形はこれらの現在をいくつも収めていて、それをわたしは実際の未来と呼ぶが、わたしたちは仮想の未来と認識している。
・仮説--わたしはルイーザ・レイと恋に落ちた。(以上『クラウド・アトラス』「半減期 ルイーザ・レイ最初の事件」より)≫

マトリョーシカと七福神。
今回、ウォシャウスキー姉弟がなぜこの『クラウド・アトラス』を選んだかといえば、これ。マトリョーシカの構造です。

参照:インセプションと荘子とボルヘス。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5074/

荘子とゴースト。
http://plaza.rakuten.co.jp/poetarin/5066/

あとで推敲します。

今日はこの辺で。


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